乗馬

 かつて,馬を3頭持っていたことがある.いや,持たざるを得ない状態になったと言った方が正確かもしれない.3頭とも息子が馬術の大会に出るための練習用の馬と大会用の馬である.きっかけは,20年くらい前に家内が近くの乗馬クラブで乗馬を始めたことにある.私と息子が始めたのは,家内の乗馬の姿を一緒に見に行ったことがきっかけである.その乗馬クラブの社長にうまいこと言いくるめられた.馬なんて遊園地の馬しか乗ったことがなかったので,そんなものかなと思っていたが,乗った途端とんでもない間違いであることが分かった.馬上はびっくりするほど不安定なものなのである.てっきり手綱が命綱かと思ったら,それは馬の方向を指示するだけのもので,体の支えにはならない.鞍にしっかりとお尻をつけて腰で体の安定をとるしか方法はないのである.私も家内も3年くらいやってやめた.最初は,すぐに暴れん坊将軍のように大地を駆け巡れるようになるかと思ったが,一向に上達しない.結局,妻も私も3年くらいでやめてしまった.ところが,小学校5年から始めた息子はどんどん上達するものだから息子には続けさせてしまった.そのうち,息子は大会に出るようになって優勝したりしたもんだから,親子共々,すっかりその気になってしまったのである.

 息子が頼りにしていた馬術の教官が同じように北広島市の郊外にある乗馬クラブに移ったので,息子もそこに移って馬を買うことになった.プリオールと名付けたかわいい馬であった.3人ともこの馬を子供のようにしてかわいがった.そうこうしているうちに,息子も高校1年生になり,千歳空港から30分ほど行ったところのノーザンホースパークで指導を受けた.そして,高校生だけの馬術大会に出場して優勝した.この馬術大会は国体の予選にもなっていたので,息子は国体に出ることになった.ここで親も子も大きな誤解をしてしまうことになる.国体の成績は4位だった.国体に出る前に日本の馬術会では第一人者であり白井牧場を経営しながら日高ケンタッキーファームで白井氏の御子息をはじめとして近所の子供たちの馬術指導をしていた.北海道の大会でも全国大会でも日高ケンタッキーファームで馬術を学んでいる子供たちがほとんど優勝したり上位を占めている.私は,その白井氏に息子の指導をお願いした.

 日高ケンタッキーファームでは,馬を2頭持つことになった.一頭は練習馬で一頭は大会馬である.息子のやったのは障害飛越というやつで,自動車学校の教習コースのようなところに障害物が置いてあり,それを落とさないで帰ってくるかどうかで競い合う競技である.  ここで人馬一体ということが非常に重要になる.まずはじめに,馬上にいる人間が馬の重心の延長線上に来るようにならなければならない.この状態が馬が一番気持ちよく能力を発揮して障害を飛び越せるのである.お尻は常に鞍にぴったりと付き馬の振動でお尻が鞍から離れないようにしなければならない.バスケットボールをつくときに手にボールが吸いついた状態に見えるのと同じような感じである.こうなるのには,腰からつま先までの使い方が非常に大切になってくるので,相当練習を積まなければならない.次に厄介なのは手綱である.手綱の先にはハミとよばれる細い鉄の棒が付いていてその部分を馬がくわえている.この手綱で方向を指示するのであるがそれ以外のときはこのハミを動かしてはならない.動かすと馬が右に行くのか左に行くのか分からなくなって混乱してしまうからである.馬が走れば当然馬の体は揺れるが馬の首も前後に揺れる.このハミを動かさない状態というのは馬の首が前後に揺れるのに合わせて手綱も前後させて合わせてやらなければならない.それができなければ,ハミが馬の口の中でカチャカチャと小刻みに揺れて馬が次第にいらいらしてくる原因になる.この体のバランスと手の感覚とを上手に操られる者だけが障害を一つも落とさないで帰って来られるのである.競馬で,馬をコントロールできないで走らせてしまうことがある.あれは,ハミのコントロールが下手なために馬がいらいらした結果である.競馬の解説はやさしいので誰も騎手のこのミスを指摘しないのが面白い.
 最後は,馬の状態である.障害を越えるときは走り幅跳びのような状態ではなく走り高跳びの状態である.したがって,垂直跳びのときにしゃがんだ状態からジャンプすれば高く飛べることと同じ原理が馬にも当てはまる.つまり,馬の体が伸びきった状態では馬は障害を飛び越すことはできない.そこで,調教によって馬を丸く伸びきらない状態にしておかなければならない.
 以上の3点に気をつけながら障害を飛ぶ練習をするのであるが,練習で混乱させてしまった馬を試合で使うのは難しい.それで,そういう風に調教されかつ上手にジャンプできる状態にした馬を一頭準備しておく必要があるのである.練習用の馬と大会用の馬とはそういうことである.
 


2010/04/16

▲ページTOPへ