・小学校外国語活動ためのカリキュラム その2

1.2 語用論と小学校外国語活動


 社会的構成主義の理念に近い言語理論に「語用論」があります。「語用論」とは「意味がどのように伝わっていくのかを」を研究する分野です。たとえば、親子の会話で


子供:お母さん遊びに行っていい?
母親:宿題終わったの?


私達は、こうした会話の真意を一瞬にして意識もせずに読み取ることができます。誰しもが、例外なく。母親は「宿題が終わってから遊びに行きなさい」と言っているとわかるはずです。語用論では、こうした含意を私たちにどのようにして通じているのかを研究します。この語用論は、意外にも、小学校外国語活動のカリキュラムを考えて行く上で非常に参考になります。それは、外国語を学んでいく上での基礎表現を私たちに示していてくれるからです。



1.2.1 英語の基礎的表現とは何か


 小学校外国語活動ですので、カリキュラムを考えて行くときに一番初めに教えるものは何かを考えて行かなければなりません。つまり、英語の基礎と言われるものです。それは語用論の基本的な考え方を見て行くことによってわかるのです。小林(2001, pp.5-6)は、言葉が無数にあるという意味で言葉を宇宙ととらえるなら、その宇宙の中心は、「ある言語を話している人物」つまり「話し手」であると言っています。

 したがって、英語活動にしろ英語学習にしろ英語教材の基礎は、「話し手=自分=私」を中心にした表現が基礎だということが言えます。



法則1:
英語教材は「話し手=自分=I」を中心にした表現と話し手に極めて身近な表現が基礎だ。


 これは、具体的に言うと、自分を表現するのですから“I like〜”や“I want to〜”を最初に教えるべきであって、 “S/he likes〜” “S/he wants to〜”は、似た形をしていても後になってから教えるべき言語材料なのです。具体的には、自分の好きなもの、自分が持っているもの、自分のほしいもの、自分のしたいこと、自分のこれからの予定、自分が見たり、行ったり、聞いたりしたことなど、話し手が「私=I」として自分自身を説明する表現がこれに当たります。


次に考えることは、「自分=I」から自分の身近なもの、すなわち、家庭・学校・それを取り巻く社会へと広がりを持たせる。



法則2:
英語教材の配列は「自分=I」から家庭・学校・それを取り巻く社会へと広がりを持たせる。


英語教材の配列は「自分=I」から家庭・学校・それを取り巻く社会へと広がりを持たせる(法則2)ことが自然です。「私=I」には、子供たちの身近な場面から地域・家庭・学校、そしてそれを取り巻く社会のことを伝達できるようにな表現へと移っていきます。この意味では、主語が「私=I」でなくても、「私=I」にいちばん身近で必要な表現も教材になり売ります。たとえば、It is red.とかIt is Sunday.などは、自分がどこにいても生きていく土台となる表現ですから基本的な表現に加えなければなりません。


 さて法則1と法則2をもう少し具体的に説明しましょう。繰り返しますが、第一に、最も基礎的な教材の基準は、「I」で始まる文例です。つまり、自分のことを表現する「私=I」が、この社会構成的カリキュラム(語用論的カリキュラム)では「最も基礎的な教材」ということになります。たとえば、「【目標4】自分のしたいことを伝える。友達のしたいことを聞く」を学年別に教材を組み立てるなら、学習目標は、次のようになります。



小学5年生:I want toを使って自分がしたいことを伝える。
小学6年生:Do you want toやWhat do you want to do?などの表現を使って相手のしたいことを聞く。
中学1年生:I want to、 Do you want to、What do you want to do?を使って自分や友達のしたいことを話す。
中学2年生:「want to」を他の表現と合わせて使うことができる。
中学3年生:「want to」が出てくる文章を見つけてくる。





つまり、小学4年と小学5年では、徹底して「I」や「you」を使って自分のことを伝える活動や友達のことを聞く活動ができる教材を配置するのです。ここでは、3人称である「heやshe」を主語として使う表現は、自分のこと以外の表現になるので基礎的な表現ではないと考えるのです。上述の目標「【目標4】自分のしたいことを伝える。友達のしたいことを聞く」では、小学5年から中学1年まで「自分=I」と「話し相手=you」を使って学習教材が作られていますが、中学2年では「「want to」を他の表現と合わせて使うことができる。」が学習目標になります。つまり、I want to(1人称)・do you want to(2人称)から、She wants to/He wants to(3人称)のような表現まで学習範囲を広げていきます。


My family is going to go shopping next Sunday because we want to buy a birthday gift for my older sister. She wants to have a new pair of shoes so we are planning to go to the Daimaru department store first. I want to go to a restaurant after shopping. There are a lot of restaurants on the 8th floor in the department store. I want to eat a steak but my sister wants to have Italian food. We have to discuss what food we will eat. I am looking forward to coming next Sunday.(家族で来週の日曜日に買い物に行く予定です。なぜならお姉さんの誕生日祝いを買いに行くからです。お姉さんは新しい靴を欲しがっています。それで、はじめに大丸デパートに行きます。私は買い物の後でレストランに行きたいです。デパートの8階にはたくさんレストランがあります。私はステーキが食べたいのですが、お姉さんはイタリア料理を食べたがっています。私たちは何を食べるのかを話し合わなければなりません。来週の日曜日が楽しみです。)



中学2年からは、上のような形で自分と話し相手以外の人(3人称)のことも説明できることを学習目標にしていくのです。





法則3:
いろいろな場面で応用可能な概念的構造を作り出す。


時数が限られている中、学ぶべき表現を数限りなく増やしていくわけにはいきません。限られた表現で、いろいろな場面で応用可能な言語材料を集める必要が生じます。さらに、このことは同じ言語材料でコミュニケーションを図っていくこととなり、学習内容の定着にもつながります。そして、ここで「いろいろな場面で応用可能な表現にする」ための工夫が必要です。


その工夫とは、完全な文でなくても私たちの脳が同じ仲間だと捕らえてくれるように工夫することです。たとえば、I want to buy a new camera.という文があるとします。この文は、役に立つ表現ですが、残念ながら具体性が強すぎて応用が効きません。どうすれば応用が利くようになるかというと、話者の選択肢が増えれるようにすればよいのです。たとえば、「a new camera」を取って「I want to buy」にしてしまったらどうでしょうか。こうすると、買うものが自由になりますから応用範囲が広がるわけです。さらに、「I want to」にしたらどうでしょうか。こうすると「何をしたいかという表現」を無限に作り出していけるようになります。つまり、I want to buy、I want to go、I want to eatと私たちの頭の中で好きな動詞をI want toに接続してくれるようになります。私たちの頭は、I want to buy a new cameraという文を応用してI want to go to see a movieという文を作り出すようになっていません。「I want to」をなんにでも応用が利く概念的構造として捉えてください。つまり、ヴィゴッツキーの言う、随意性と関連しています。この概念的構造は学習者の頭の中に随意性をもたせることができるようになるのです。具体的には“I want to〜”、“I like〜”などの言語材料がそれに当たります。ここで気をつけなければならないのは、これをI want to buyにすると買い物をするのに応用が利く表現になります。ところが、I want toにするともっと応用がきく表現になります。本論では、そのような教材を選びます。



法則4:
「自分=I」で始まる日常的に使用頻度が高い言語材料を選ぶこと。


使用頻度の高い言語材料は、他でもない「自分 = I」を取り巻く日常生活を色濃く表現しているといえるでしょう。池田(1995)は『外国語学習者にとっては、出現頻度の高い語・汎用性の高い語ほど、「先に学ぶべき語」であり、意味領域の狭い語、汎用性の低い語は「難しい単語」として「後に学ぶべき語」とされる』と主張しています。この意味で、私たちは、英語活動で選ぶ言語材料には、日常的に使用頻度が高いものを提案します。また、(3)と同様に、使用頻度が高いことは何回も同じ言語材料でコミュニケーションを図っていくこととなり、学習内容の定着にもつながるでしょう。


この使用頻度が高い言語材料は、(3)の “I like〜”、“I want to〜”とも重なる部分もあります。しかし、その一方で(3)の言語材料ほど、いろいろな場面には応用できないのですが、日常よく使用する言語材料があります。“I am going to〜”や“I have to〜”といった言語材料です。“I am going to〜”や“I have to〜”は、“I’m gonna”、“I hafta”といった縮約が起きます。これは、日常的に使用頻度が高いことを証明しています。この日常的に使用頻度が高いものを言語材料に選ぶことで地域・家庭・学校で「自分=I」を表現できる授業を目指していきます。



法則5:
話し手に極めて密接で使用頻度が高い表現。
たとえば、依頼表現、許可表現、各種疑問文とその答え。


さて、それでは、ここに法則1〜法則5の条件に適する表現を集めてみましょう。かつて、根市高志(1965)が集めた表現が法則1から法則5の条件を兼ね備えた教材をたくさん作り出しているので、次の章ではそれをし迂回しながら、その教材利用して考えてみたい。









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